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「まあ、言っても年齢で区切られた大会だから、たいしたことないんだ」
「そんな、すごいですよ」
樫山が大げさに褒めると、周防は満更でもない顔で話を続ける。
「いやさ、その決勝の相手が、なんとうちの院長でさ。しかも、やつとは腐れ縁で、高校時代に卓球のペアを組んでたことがあってな」
知ってる、と樫山は心で呟いた。その話は、店の卸業者で周防の幼馴染でもある島地征吾から入手済みだ。その院長は、周防の初恋相手と結婚した、曰く付きの人物だ。
「ペアとはいえ、俺はあいつの卓球に対する姿勢が嫌いでね。あのやろう、昔から本当に嫌な卓球をするんだ。相手をイライラさせる、そんな打ち方をする。ペアじゃなかったら、本気で喧嘩してたかもしれん。だから、そいつに勝てて、なんかスッとしたっていうか、ほっとしたっていうか」
樫山は、「なるほど、それはそれは」と頷きながら、舐めるようにきれいになくなった、ポテトサラダの小鉢を下げる。
「まあ、そうは言っても、あいつのおかげでインターハイに行けたってのは事実でさ。実は今日も誘ったんだけど、断られた。いつか連れてくるよ。院長だし、取り入っとかないと」
口角を片方だけ上げた周防に、樫山はお願いしますと頭を下げた。
「そういや由梨に俺の勇姿を見せたくて声をかけたんだけど、用事があるとかで来なかったんだよ。昨日の昼、もしかして樫山君とデートだったか?」
周防のひやかしを、樫山はさらりと流す。「いくら自分の彼女でも、プライベートはお答えできません。それよりこちらを」
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