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その時、店の扉が開き、陽気な声が響いた。
「いやぁ、ノリの奢りだっていうから、ついに客として来ちゃったよ」
日に焼けた血色の良い顔で入ってきたのは、卸業者の島地征吾だ。樫山は能力がなくなったことで生まれるサプライズを、喜ばしく感じた。
「いらっしゃいませ。お連れ様って、島地さんだったんですね」
「おう、今日は頼むね。あれ、ノリの永遠のライバルは来てないのか?」
「ライバルって言うのやめろ。今日は無理なんだと」と周防が口を尖らせる。
「あ、樫山くん、オレンジ系のさっぱりしたやつくれる?」
「おいおい、なんだ、その女子みたいなオーダー」
「俺、酒弱いんだよ。知らんかった?」
「知ってるけどさ。オレンジ系って」
樫山は初めて見る二人のやりとりを心から微笑ましく眺めた。謝罪以上の、感謝の念を胸に秘めて……。
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