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「やっぱ、このポテサラおいしー」
城ヶ崎由梨は、樫山が作ったポテトサラダをひとくち頬張り、満面の笑みを浮かべた。そして、もぐもぐと口を動かしながら、厨房で黙々と野菜を刻む樫山に声をかけた。
「宗ちゃん、私もなんか手伝おうか?」
「ありがとう。ゆっくり食べなよ。それに、できれば一人でやりたいんだ」
「じゃあ、大変になったら、その時声かけて」
明日の午後3時にプレオープンを控えたその日、樫山は昼過ぎから、ずっと店で仕込み作業をしていた。
明日は完全予約制のバイキング形式なので、作るものは決まっていた。しかし、予約数は18。少人数を相手にしていた樫山にとって、初めての経験だ。
新店舗は路面店で、大きなガラス窓と白い壁で、以前の樫山の店とは大きくイメージを変えていた。席数は4人がけのテーブルが2つに、カウンター席が5つ。
店名は、樫(かし)。
なんてことはない、店主の苗字から取っただけだ。深く考えず、すぐに決まった。ただほんの少しだけ、大きな樫の木を連想した。豊かな森にいるような、そんな、ゆったりとした空間になってくれれば……。
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