20 ポテトサラダの隠し味

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「ねえねえ、宗ちゃん。ダンスってもうやらないの?」  陽も傾き始めた頃、暇を持て余した由梨は、厨房で仕込みを続ける樫山に言った。 「そうだね。辞めちゃったし」樫山は手を止めずに答える。「どうして?」 「私、宗ちゃんが踊ってるの、見たことないから」  由梨は立ち上がり、厨房で手を洗う樫山の背中に自分の背中をくっつけ、甘えた声を出す。「見たいなぁ」  すると樫山は、エプロンを外し、唐突に店の明かりを消した。 「え、なに。暗いんだけど」  驚く由梨をよそに、樫山は窓へ近づき、ブラインドを開けた。 「踊りはね、見るより踊ったほうが楽しい」樫山は由梨の両手を掴む。 「わ、私、踊れないよ」  慌てる由梨を引き連れ、樫山は店の中央に立つ。そして、簡単なステップを踏む。 「真似して」  軽やかに、まるで浮いているように樫山の足が左右に揺れる。右手は由梨の手を握ったまま、左手でオーディオのスイッチを入れた。 「あわわ」  樫山に振り回されるようにステップを踏む由梨を見て、樫山は無邪気に笑った。すっかりと暗くなった店内に、月明かりが差し込み、二人をやさしく照らす。
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