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樫山は立ち止まり、由梨の手を取り訊いた。
「前に、僕と結婚するのは、自分か愛理さんだって言ったよね」
「うん」
「あれって、勘?」
「ん、まあね。でも……」と、由梨は言葉を切り、口をきゅっと閉じる。「実はね、照れ臭くて本音は言わなかったけど、本当はどっちかじゃなく、私とって思ってた」
由梨の答えに、樫山は小さく笑い、そして言った。
「それ、超能力みたいだな」
由梨は頬を染め、大きく頷く。「すごいでしょ」
* * *
能力を失った樫山だったが、ひとつだけ小さな秘密が残った。それは、あの樫山の片割れの存在だ。
彼は今、樫山のなかでそのほとんどを眠って過ごしている。そして時折、樫山が眠りに落ちる寸前に、ほんの束の間目を覚まし、幸せそうに微笑むのだ。まるで両親に初めて笑顔を見せる赤ん坊のように。
(おわり)
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