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樫山が知り得るのは、頭に浮かんだ言葉と映像だ。たいていは、その2つが同時に存在するのだが、今、由梨の心にあるのは、映像だけ。由梨に優しく笑いかける人物。それは、さきほどのスマホの相手ではない。
由梨の心に、男の声が響く。
――愛してる。結婚しよう。
ふいに由梨が樫山に視線を向けた。その視線の鋭さに小さく動揺した樫山は、興味のない話題をふってしまう。
「ところで、周防さんはお元気ですか? 最近お会いしてなくて」
「ああ、元気元気。周防先生ね、先月、離婚したよ。ようやく。育児放棄した嫁と、財産分与の件なんかが解決して、この春、めでたく離婚成立。子供と仲良く暮らしてるんだって」
「あはは。めでたく離婚ですか」
「周防のおっさんの話はいいから、早く占って」
「了解しました」
酔いの回ってきた由梨にせがまれ、樫山は引き出しからタロットを取り出した。
「では、何を占いますか?」
「そりゃあ、やっぱ、恋愛でしょ」
「では、占いたい相手を想像し、何を知りたいのか、おっしゃってください」
「あ、えっとぉ。今付き合ってる彼との将来、かな」
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