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「お金を……。それは、まさにこのカードの示す通りですね。失礼ですが、その方は身元のしっかりした方ですか?」
由梨は首を左右に振る。「飲み屋で知り合っただけだし、彼の両親にも会わせてもらってない」
「ご自宅には?」
「一応行ったよ。でも、もうすぐ引っ越すとかで、荷物が全然なかった」
「結婚の約束を取り付けてからの借金。それは、まるで詐欺の手口に思えますが……」
由梨は俯き、目の前のタロットカードをじっと見つめた。
「詐欺だよねぇ……」
そう言ってうなだれる姿を眺め、樫山の心は揺れた。自分の発言は由梨にとって、正しかったのだろうか。
しかし、どうやら由梨はそんな弱い女ではないようだ。すっと顔を上げ、にこりと笑った。
「あー、もやもやが解けたら、お腹減ってきた。マスターにお任せするから、適当になんか作って」
出来上がったのは、トマトとアンチョビのプッタネスカ。
「だーかーらー、ダイエット中なんだって。パスタはやばいって。太ってモテなくなったら、責任取ってマスターが嫁にもらってよ」
腹が減ったと言ってから、ずっとパスタの映像を浮かべていた由梨。言葉とは裏腹に、フォークの動きは止まらない。
「城ヶ崎様は太ったからといって、モテなくなんてならないです」
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