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『可哀想。あなたも、あなたを産んだお母さんも可哀想。誰にも愛されないまま、どうして十七年も生きてきたの?』
『かぁいそう』
『かぁいそうだねぇ』
『こっちに、おいで?』
呼吸が浅くなる。思考がまとまらない。
ダメだ。このままじゃ、このままじゃつれていかれる。逃げなきゃ。
くすくす、笑い声が酷くなる。冷たい手がいくつも僕にまとわりついて、絡め取ろうとしてくる。全身が重く気怠いのに、恐怖と絶望感だけが研ぎ澄まされてゆく。
『誰にも祝福されない、可哀想な子』
やめろ、と叫ぶ。
実際には声にならなかったかもしれない。
冷たい。凍りつきそうなほど寒い。蝉に混じって哄笑がこだまする。心の柔らかい部分を冷たい手が、悪意にまみれた爪が抉って、抉って、血が噴き出す。
僕の中に入ってくるな。僕の記憶を、心を見るな!
「落ちついて!」
涼やかな声が凛と響き渡った。
途端、全身を覆っていた冷気がほどけ、黒々とした靄が視界の端に映る。
「この性悪亡霊!弱った人間に手ぇだすとか最悪!消え失せろ!」
怒声がビリビリと空気を震わせる。何が何だかわからず立ち尽くしていると、ふわりと柑橘系の匂いがして、温かい手が僕の腕をつかんだ。
「行くよ!走って!」
「え?ど、どこに……」
「いいからはやく!」
信じられないほど強い力でぐいぐい引っ張っていく。僕はされるがまま、ほとんど引きずられながら炎天下の中を駆け抜けた。
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