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2.愛と夢の部屋
サヨさんにつれてこられたマンションは、かなり老朽化が進んだ紛うことなきボロアパートだった。ここで一人暮らしをしていると言う。
こんなところで一人暮らしなんて危険じゃないかと、ぼぅっと霞む頭で考える。
予想通り中も狭い。だが、掃除が行き届いていて、柑橘系の匂いが仄かに漂う、心地のよい空間だった。
「そこの椅子に座ってて。麦茶持ってくるね」
言われるままに腰かけ、改めて部屋を見渡す。白い光をこぼす小さな窓、明るい空色のカーテン、若草色のカーペットに、手作りらしいたくさんのぬいぐるみとクッション。
一人暮らしに見えないほど、温かくて幸福な部屋に見えた。
「はい、どうぞ」
からん。
ガラスのコップに氷がぶつかって、澄んだ音がした。冷えた麦茶が美味しくて、あっという間に飲み干してしまう。
サヨさんはベッドに腰掛け、にこにこしながら僕を見守っていたが、麦茶のおかわりを注いだあと、急に真面目な顔になった。
「さっきは災難だったね。いつも霊とか見えるの?」
「はい。物心ついた時から、わりと。サヨさんも、ですよね?」
「まあね。でも、私はあんなにたくさんの悪霊にまとわりつかれたことはないよ?」
「僕も普段はあそこまで酷いことにはならないんです。ただ……」
言いかけて、やめた。
赤の他人に何を言っているのだ、僕は。サヨさんは悪い人には見えないが、会って数分の人間に話すようなことではない。
「……そろそろ、お盆ですからね。そのせいじゃないかな」
結局、無難なことを言ってお茶を濁した。
サヨさんはまばたきして、首を傾げる。
「そういうものかなぁ?てっきり、あなたが弱ってるんだと思った。さっきの奴らは、人間の弱みにつけこんでつれていくタイプの悪霊に見えたから」
「そんなことまでわかるんですか?」
「あくまで何となく、ね。はっきりしたことは言えないよ」
こともなげに言うが、結構すごいことだと思う。僕は普通の人より霊が見えやすい体質だが、そこまではわからない。
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