3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「とにかく、気をつけてね?奴らは隙を見せるとすぐ寄ってくるんだから。夜くん、引き寄せやすいわりに撃退が苦手そう。心配だなぁ」
「はは……。ところで、サヨさんは一人暮らしなんですよね?」
「そうだよー?」
それとなく話を逸らす。本当はこのタイミングで出ていくべきだったのだろうけど、どうにも腰が重い。先程の悪霊のせいだろうか。
「一人暮らしって、もっと殺風景か、もしくは雑然とした部屋を想像していたので……失礼だったらすみません」
「一人暮らしっぽくないってこと?」
「ま、まぁ」
「それはそうね。だって、本当は二人だもの」
サヨさんはふっと唇をほころばせ、穏やかに微笑んだ。手をそっとお腹に置き、慈愛に眼差しを注ぐ。
「私、子供ができたの」
「……えっ!?」
ギョッとして、頭のてっぺんから爪先まで眺め回し、慌てふためく。
「こここ子供ぉっ!?さ、サヨさん、高校生ですよね!?」
「うん」
「うん、じゃなくて!」
「この子のお父さんは彼氏なんだけど、産むかおろすかで喧嘩した挙句、最近別れちゃったんだよね。てへっ」
「ええええっ」
「一人暮らしなのも、妊娠してること言って家族に追い出されたからなんだよねぇ。いやぁ、ドラマとかではありがちだけど、実際に自分の身に起こると笑える!」
「いやいやいや笑えないから!」
思わず立ちあがって叫ぶと、サヨさんは朗らかに笑った。
軽いノリで喋っているが、明らかにやばい。高校生の母親だの、恋人と別れただの、追い出されただの、どこから突っ込んでいいのやら。
止めようと口を開き、
「だから、この部屋は私とこの子の部屋。産まれてくる子が安心して暮らせるように、ちょっとずつ準備してるんだ」
幸せそうな顔で告げられ、言葉を失った。
最初のコメントを投稿しよう!