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伯母は淡々と接してくれるが、時々激情を覗かせる。僕の血縁上の父親を罵る時は、特に。それはつまり、僕への怒りと恨みでもあるのだろう。母の写真すら見せてくれないのがいい証拠だ。
「それに、僕は霊感が強いから。伯母さんたちは見えないらしくて、気持ち悪がられます」
だから、見えないふりをした。見ないふりをしてきた。亡霊の笑い声も、ひとのの恨みも。
それでも、夏は毎年やって来る。
僕が産まれて、母さんが死んだ、八月。
「母さんだってきっと、僕なんか産みたくなかったんだ。星野夜なんていい加減な名前つけたくらいだし。笑えますよね。僕を恨んで死んでいったんだろうって、思って……ぼく、ぼくは、僕だって産まれたくなんかなかったのに!」
「笑えないよ」
ふわりと、爽やかな香りが鼻を掠める。
ハッとすると、眼前にサヨさんの澄んだ瞳があった。
「笑えないよ。産まれたくなかったなんて言わないで」
サヨさんの手が僕の頬に触れる。温かいのに、氷柱のように冷たい。矛盾した感覚に酷く混乱する。
「あなたの名前は星空の夜。霊が溢れるのはお日様のもとよりも暗い夜の中。だから、夜を、あなたを、星の平野が守ってくれますように。夜を嫌いになりませんように。そんな願いが込められた名前よ」
そんな風に言われたことはない。同級生にはさんざん変だと馬鹿にされてきた。
だいたい、サヨさんにわかるはずがない。
「あなたに何がッ」
「わかるわ。だって、」
ぎゅっと、柔らかなモノに包まれる。爽やかな柑橘の匂いと、知らないはずの懐かしさ。冷たくて、あったかい。
「私がそう願ったんだもの」
愛おしくてたまらないというような声だった。
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