祭の日に

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8月の夏の盛り。 日中は太陽が容赦なく照りつけ暑いが、今は日が沈み、暑さは和らいでいる。 歩くと頬にあたる夜風が気持ちいい。 俺は夜道を家に向かって歩いていた。遠く、祭囃子が聞こえる。 今日は年に一回の祭りの日だ。こんな田舎の村の祭だからたいして規模は大きくないが、それでも村の者は皆、今日の日を楽しみにしている。 歩く道の角から色鮮やかな浴衣を着た若い娘が二人、歩いてきた。二人とも、髪を綺麗に結い上げ花の髪飾りをつけている。嬉しそうに笑いながら、二人仲良く祭囃子の鳴るほうへ歩いていく。 祭はこの村での出会いの場にもなっている。この日出会い、付き合うようになる男女は昔から多い。 きっと今すれ違った娘たちも祭を楽しむだけでなく、そういう期待に胸を膨らませ、着飾っているのだろう。 家に着くと、俺は玄関には入らず、庭に回った。 日本家屋の古い家に似合う、昔ながらの庭だ。小さな池があって、松の木が植わっている。 その池のそばに、淡い水色の浴衣を着た若い娘が一人立っていた。
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