秘密の香り

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「買い物に行こうよ。新しくできたカフェに行くって約束してたでしょ?」 「カフェに行った次の日は?」 「隣町に秋物の服を買いに行く」 「まだ買ってないの?」 「なにも持ってきてないから」 「確かにちょっと寒い」   自分の体を抱きしめる真紀の背中に腕を回す。 寄り添いお互いに傾けた頭をくっつけると、これがすべて夢のように思えてきた。 「じゃあ、服を買いに行った次の日は?」   どうして彼女はこんなことを聞くのだろうか。 ようやく二人の世界が訪れたというのに、この先の未来を決めたがるのだろうか。 「まだ、考えなくてもいいよ。その時に決めたらいいでしょ?」 「そうだね。その方が楽しいもんね」   先のことなど考えなくてもいい。 今は彼女の隣にこうして座っていたいのだ。   そう思うことは間違っているのだろうか。
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