憧れ色に濡れた唇

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こんなに楽しくない昼食は、高校生活で初めてのことだ。 早く食べ終わり、さっさとここを離れたい。 「香菜ちゃんのお弁当おいしそうだね。香菜ちゃんの手作り?」   佐藤真紀に弁当をのぞき込まれ、弁当箱に伸ばしかけた箸が止まる。 「ううん、お母さんだよ」 「へえ、いいお母さんだね」   なぜ、彼女は平然と私に話しかけられるのだ。 無理やり私と友人を引き離しておいて、なにも感じないのだろうか。 今頃、食堂では朋ちゃんが私のことを友人たちに話しているころだ。 佐藤真紀について行った裏切り者のことを友人たちが、どう思っているのか気になって仕方がない。   それでも、今は表面上だけでも楽しく食事をしなければならない。 佐藤真紀の小さなピンク色のお弁当箱をのぞき込み、無理やりに口角をあげて笑ったふりをする。
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