憧れ色に濡れた唇

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「佐藤さんのお弁当もおいしそう。自分で作ってるなんてすごいね」 「あれ、私が作ってるって話したっけ?」 「前に西野さんたちと話してるのを聞いたの」   西野さんたちがすごいだなんだと持ち上げる声を鮮明に覚えている。 「すごくなんてないよ。冷凍食品も使ってるし、ほとんど夕食のあまりものだよ。うちは両親が共働きだから夕食は私の担当なの」   すごくないと言いながらも、彼女は嬉しそうだ。   照れくさそうなこの顔も嘘なのだろうか。 こうやって話していると、まるで本当の友達にでもなったような錯覚をしてしまう。 「ちょっと大変だけど、お母さんは私の憧れなんだ。会社でも大事なポジション貰って、毎日忙しそうに働いて。いつも綺麗に化粧をして、スキのない女って感じでさ。私も大人になったら、バリバリ働く女になるの」   彼女は母親と仲がいいのだろう。 楽しげに話す姿だけは、嘘偽りだとは思えなかった。
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