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首を掴まれたように息が詰まり、返事もできないまま立ち尽くすことしかできない。
リップクリームを持つ手が小刻みに震えている、
徐々に近づく足音。このままでは、私の学校生活は破滅だ。
手鏡に唇だけ彩った真っ青な滑稽な顔を見つめていると、私の肩越しから彼女の顔がのぞいた。
「それ、私のリップだよね?」
鏡越しにクラスメイト――佐藤真紀と視線がかち合う。
佐藤真紀の手が私の手に触れた。
しっかり握りこんでいた色付きリップを、彼女は私の震える指から抜き取る。
「あの、あの」
「これ、ポーチに入ってなかった?」
机にあるピンクのポーチを手に取り、彼女は首を傾げた。
私の目をのぞき込みほほ笑んだ顔は相変わらず綺麗で、こんな時だというのに嫉妬心さえ抱いてしまいそうだ。
「おかしいな。ねえ、一条さん。私のポーチがどうして開いてるのか知ってる?」
彼女はきっと気付いている。
そのうえで聞いてきたということは、私を脅そうとでも思っているのかもしれない。
「ごめんなさい。あの、ちょっと使ってみたくて、つい」
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