憧れ色に濡れた唇

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「お母さん、どんな仕事をしてるの?」 「うーん、私には難しくて良く分からないかな。簡単に言うと、コンサルタント系だよ」   親の仕事というのは、子供には良く分からないものかもしれない。 私も父親の仕事がどういったものかと聞かれても、うまく説明できないだろう。 「あ、卵焼き交換しようよ」   唐突に彼女の視線が私の弁当に向く。 特に断る理由もなく、私は弁当箱を差し出した。   佐藤真紀は私の卵焼きを取ると、彼女の弁当箱にある卵焼きを私の弁当箱に移した。 「卵焼きって家庭の味が一番出るよね。香菜ちゃんちは甘いんだ」   母親特製の卵焼きを食べながら、彼女は斜め上を向いて不思議そうな顔だ。   うちの卵焼きは、昔から砂糖たっぷりふわふわのお菓子のような味だ。 例えるならばおせちの伊達巻に近い。 対する佐藤真紀お手製のものは、うちとは正反対の味だった。
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