憧れ色に濡れた唇

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「私、甘くない卵焼きって初めてかも」   しょうゆ味というのだろうか。だしが聞いていて薄味だがクセになる味だ。 「自分で言うのもなんだけど、結構おいしいでしょ?」 「うん、美味しいよ」   成績優秀、容姿端麗に加え、料理もできるらしい。 母親に家事は任せきりな私としては、同性として嫉妬心がほんのり芽生えそうだ。 「私もたまには甘いのもいいかもな。でも、お母さんが甘いやつが苦手なんだよね。そうだ、また次も交換しようよ」 「いい、けど」   明日も一緒に食べるつもりなのだろうか。 それとも、次の機会ということか。   答えを聞かなかったのは、せめてもの抵抗だった。 それでも、彼女は私を逃がしてくれない。 「約束だからね」   先ほどまでの無邪気な表情を鉄壁の微笑に変え、彼女は私の小指に無理やり指を絡める。
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