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佐藤真紀は薄ピンク色のリップクリームのふたを閉め、私の手に握りこませる。
確かにこれでは返すことは出来ない。
しっとりと濡れた唇に触れ、こぼれそうな吐息を飲み込んだ。
「あの、あとでお金渡すから」
「いいの、いらない。それじゃあ、売りつけたみたいだもん。それはプレゼントだから」
「……ありがとう、佐藤さん」
お礼を告げると、満足そうな笑顔を返された。
こういう、押しつけがましいところは苦手だ。
そのはずなのに、リップクリームで彩った唇を鏡で見たくて仕方がない。
「佐藤さんじゃなくて、真紀って呼んでよ。私も香菜って呼ぶから」
「まき、ちゃん」
なんとなく照れくさい。他の友人を名前で呼ぶのとは違い、声に出すだけで緊張した。
「よくできました」
真紀は私の頭をなぜ、前髪に指をとおした。
か細い彼女の指で髪を梳かれると、胸が妙にざわついた。
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