憧れ色に濡れた唇

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「香菜って、綺麗な髪してるよね」 「そうかな?」   嬉しい。   いつも一本にひっつめて結んでいるせいで髪が痛んでしまうため、ケアはきちんとしているつもりだ。 化粧をして学校に行く勇気もなく、制服を着崩すこともできない私にとって、髪と肌の手入れは唯一できるオシャレと同じだった。 日々の努力を褒められ、嬉しくないわけがない。 それでも、表情に出すのは格好悪い気がしてちょっと気取った態度をとってしまった。 「ねえ、ゴムをとってもいい?」 「いいけど」   なにをされるのか警戒しながらも、どこか期待している自分がいた。   真紀は私の髪を結ぶゴムを取り去り、持ち歩いているのか胸ポケットからコームを出した。 透き通ったピンク色にラメがちりばめらた、かわいらしいコームだ。
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