「夏がきた」

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そのときである。救世主がスズメバチの上に着地し、スズメバチの頭部をボリボリ音を立てて食べ始めた。 恐らく五分もかからなかったであろう。頭部を失ったスズメバチは僕の膝頭の方向へもがきながら落ちて行った。命の恩人であるオニヤンマは礼を述べるまもなく、大空へ飛び立って行った。 助かったぼくは、腰かけた大きな墓の一角の中央にそびえたつ墓石に刻まれた文字を目にする。 「媚(こ)びず、諂(へつら)わず、とらわれず。」  岩本徹三 ここに眠る ぼくはこのときこの墓の主が僕を救ってくれたと確信していた。
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