誘い

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一体ここで何をすれば良いのか、いつまでいれば良いのだろうか? 誰もいないログハウスの中で誰かの問いかけるかのように男は目的もなく右往左往している。男が歩く度に木と木が軋み、家鳴りが全体に響き、黒い粉の様な物が天井から降り注ぐ。 男はおもむろに外へと続く扉へと歩を進め、何度目かもわからない行為をする為ドアノブへと手を掛けようとした。だが、あと少しで触れる寸での所で男は深くため息を吐きその手を静かに下した。 男の表情は険しく「もちろん試したさ…」と言わんばかりであった。開かずの扉に付いている窓からは喉から手が出るほど欲している外の世界が開けていた。外は既に暗く雨よけについているであろうライトが薄っすらと辺りを照らしていた。その光に照らされ家の前には青いジムニーが物も言わずに佇んでいた。 男は歯を食いしばり拳に込めた怒りを扉にぶつけると肩を落としすぐそこにあるソファーに体を埋める。部屋の中で唯一稼働している扇風機が温い風を男の体にぶつけている。男の右側には40インチのテレビが鎮座しているが彼が何度なく呼びかけても返事はなかった。男が前屈みになりながら顔を覆い深く嘆息していると、ふと違和感に気付き一瞬体を硬直させる。一瞬体を硬直させる。掌は空だったはずなのに今は確実に顔と手の間に何か硬い物があった。恐る恐る男は顔を掌からゆっくりと話す。 部屋の中に湿気が充満している。男の額には汗がびっしりと張り付いていたが明らかに原因はそれではなかった。
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