彼の慟哭

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「俺に何をさせたい、俺に何をしてほしい?もう1度あれを味わえって言うのか…?」 ほぼほぼ擦れてまともに聞こえない言葉を誰へとなくぶつける。 男は葛藤していた。これを捨てちゃまずい、これを吸わなきゃまずい。三度目までだ、次はない。 しかし、そんな葛藤はシャンパンが開いたような音に掻き消される。 男はこの状況に似つかわしくない音に意識を引き戻され、音がした方へと目をやる。 そこにはちょうど熱を帯び使われるのを今かと待っているシガーライターがあった。 男は額の汗を拭うこともなく震える手でゆっくりとそれを手にする。 煌々と赤く燃えるそれを見つめながら男は躊躇していた。またあれが来ると。 くらい社内でライターだけがヘッドライトにも負けじと周りを赤く照らしている。 男は意を決し顔に無数の皺を作りながら手に握らされた煙草を咥える。 ――――――― 3秒は経っただろうか?男にしてみれば3時間に感じられただろうか? 時間なんてものはこの際全くもって関係ない。あれが来ない、あの恐怖が来る気配が微塵もない。 男は津波のようにやってきたこの怒涛の時間の中に僅かな安堵を見出す。その緩んだ口元には微かに笑みさえ見て取れる。 この時男の緩み切った神経はある一つの愚かな判断を信号に乗せて彼の脳へと送ってしまう。 男は咥えた煙草の先端へ、今も煌々と煌めいているライターを押し付ける。 熱が煙草の葉を燃やし、焦がす音が静かだがはっきりと聞き取れる。 彼はライターをソケットへと乱暴に押し込み、これまでのうっ憤をぶつけるかのようにこれでもかと煙を吸い込む。 フィルターを口から外し、半分息と共に煙を吐き出してはまたすぐに引っ込める。そして、肺まで入れた煙もろとも勢いよく吐き出す。
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