誓い

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誓い

 登山口の最寄り駅に降り立った俺は顔をしかめた。リュックを背負った家族連れが多い。 「山の日だからだろう」 「山の日? ってなんだっけ?」  待ち合わせ場所にきた兄貴は呆れ顔になった。 「二年前にできた祝日をなぜ知らない?」 「うちの職場じゃ、土日も祭日も関係ないから」  独身だから家族サービスとも無縁だ。 「祝日、だ。祭日は昭和22年の皇室祭祀令廃止に伴いなくなった。そもそも祭日というのは神道の」  わかった、わかった、と俺は慌てて手を振った。 「これだから公務員は」  舌打ちした俺は「おまえも公務員だろう」と兄の反撃にあい、肩をすくめた。  緩いピクニックコースを並んで歩く。 「山の日だし、おまえが死んだ父さんのことで話があると言ってきた時に、ここがいいと思ってな」  言われて、俺は今日の目的を思い出した。 「兄貴。遺産の件、ありがとう。遺留分減殺請求って言うんだっけ?」 「――自分の分を申し立てるついでだ。父さんに勘当されてたおまえはやりにくいだろうから」  俺は一年前に親父の妻になった、自分よりもかなり年下の女の顔を思い出した。 「あの女、父さんの遺言書をタテにゴネまくったぞ。多額の保険金が入るくせに」     
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