【やっぱり、女神っていうのは、苛烈だね。】

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 まったく僕ってやつは、生まれつき、出来損ないでね。  人には生まれついての『格』ってやつがあってね。それを否定するやつもいるがね、僕ときたら、まともに外を歩くことすら困難でね。  どうしても、なんだか妙になっちゃうのさ。  呼吸だけで精一杯だよ。  でも、そんな僕にも利点があるんだ。長所、というとなんだか違くて、僕は利点という言い方が一番しっくりくる。僕が僕であるメリットというやつだ。  第一に、僕はどんなときでも平常でいられるんだ。  まあ、その、僕が持つ平常というやつがすでに、かなり低品質でお粗末なものなのだけれど、しかしいつだって、そのお粗末な平常のままでいられるんだ。  前に、ビルで大規模な火災が起きてさ。僕もそのビルの中に、そう、そのビルの三階にいたんだけど、けれど僕は酷い煙の臭いがしても、揺らめく炎をこの目に捉えても、慌てふためくことなく平常でいられたね。おかげで逃げ延びることができた。  第二に、僕は努力することを知っている。  努力しなければ、努力していないことに関しては、本当になにもできないんだけどね。それに努力したとしても、精々人並みだし、努力ではどうにもならないこともあるし。  まあでも、これは本当に気付いてよかったことだと思ってる。本当に。  僕は今、中学二年生なんだけど、今は中学二年生に上がりたての春の日和ってわけだけど、まあなんとか、生きているよ。  そうそう、このクラスには女神がいるんだよ。  女神だよ、女神。マドンナとは違うよ?  九錠 楓さんって言ってさ、九つの鍵って書いて『くじょう』と読む、垢抜けていて素敵な苗字を持つ女の子なんだけどさ。それでいて、楓ときたものだから、もう名前だけでも話題性抜群な感じなんだよ。ここ、私立 花楓(かえで)中学校っていう名前だからさ。
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