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体を重ねるということはゲームのような物だ。
その気にさせて、させられて、お互い気持ちのいい時間を過ごしたら汗をシャワーで流してお別れ。
それは相手がいるというだけの独りよがりな行為。そこに愛情といった類いのものは必要ない。
「おはよう」
一晩限りの相手と朝を迎えるなんていうのは久住には有り得ない事で、ましてや行為の後キスをしながら眠るなど以ての外。
それが今朝は隣に穂高がいて、まだ寝ぼけているのか久住を見てパチパチと何度も瞬きしている。普段ならそんな表情を可愛いと思ったりはしない。
参った、これはもう認めざるを得ない。彼は例外なのだと。
「あ……お、はよう、ございます」
言いながらシーツの中に顔を隠す穂高。
照れているのだとわかって笑みが零れる。昨夜のパーティー会場での彼は最高の演技をしていた。久住を誘惑するという、極上の舞台で最高級の嘘を纏っていたのだ。
本来の彼はこちらの彼で、久住の本能もそれを見抜いていた。そしてその演技に乗ることにしたのだ。久住自身、そうとは気が付かずに。
夜の魔法が解けて朝になれば仮面は剥がれて嘘は消えてしまう。
独りよがりだった行為は彼によって終焉の時を迎え、残ったのは体の関係以上の感情。
「良ければ朝食を摂りながらゆっくり話でもしないか?」
これからの二人の話を。
そう、例えば今日これからの予定や、連絡先、次に会える日の話なんかを。
「その前に、汗を流したいです」
「一緒に入る?」
シーツの隙間から顔を少しだけ出して穂高が小さく頷く。
その額に、頬に、柔らかい口唇に優しいキスをして。
二人の本当の毎日が始まる――。
【終わり】
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