独りよがりな嘘とキス

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「帰ったかと思いました?」  久住の横に立ったのは先程の彼だった。  極上の笑みを浮かべエレベーターが到着すると同時に久住の手を引いて中へと誘導する。 「今夜はここに宿泊なんです。夜景の綺麗な部屋なのに独り寝は寂しいと思ってました」 「それで、一晩限りの相手を品定めしに?」 「普段は仕事関係の人間には手は出さないんですよ、これでも」 「……オレもだよ」  エレベーターがとまると彼に手を引かれたまま部屋の前まで案内された。  スーツの内ポケットからカードキーを取り出し、部屋の鍵を開けると彼に促されて中に入る。  大きなガラス張りの部屋からは眩しいくらいの夜景が見えて、久住はその眺望の良さに息を飲んだ。  普段、ホテルに泊まるのは出張の時くらいで自らの住まいがある地域でホテルに泊まることは殆どない。たまに売り専を呼ぶ時も使い慣れたホテルしか使わない。だからこのホテルにこんなに景色のいい部屋があるとは知らなかった。 「綺麗でしょ」  スーツのジャケットを脱ぎながら彼が言う。ハッと我に返ると不敵な笑みを浮かべた彼が久住の前に来て上目遣いで見つめる。 「名前……聞いてなかったな」 「穂高」 「穂高……」  名前を呼ぶと彼から触れるだけのキスをされ、スーツのボタンが外されていく。慣れた手つきに少しだけ妬けた。 「貴方は?」 「久住」 「久住さん、か。素敵なネクタイですね」  穂高の綺麗な指が久住のネクタイを緩めていく。まるでネクタイが蛇のように穂高の指に絡みつき、夜景の灯りだけの部屋に怪しく存在する。  シュル、と衣擦れの音をさせながらネクタイが外され足下に落ちていく。  自分のネクタイを緩める穂高の仕草は妖艶で、早く喰らい尽くしたいと久住は喉を鳴らしながら思った。
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