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6 ,本当のこと。
私は猫だ。
猫なんだが、それでも前世の記憶があるというか、むしろ人間が猫の中に入ったような気がしてならない。
いつ生まれたのか、何に育てられたのか、全く記憶がない。
ただ、人間だった頃の記憶が鮮明に残っていた。
いや、この人間と会って、鮮明に思い出されたのだ。
俺は人間だった。
優しい母と、責任感の強い憧れの父。
まさにドラマに出るような素敵な家族だった。
俺は、小学校に上がると、頻繁に入院するようになって、わけもわからず病院にいるときもあった。
中学生の俺は、まさに健康そのもので、休日は友達と遊んだり、家族とお出かけをしたり、勉強もそこそこできたので、高校への不安も少なかった。
だが、高校入試の3日前。
急に胸のあたりが苦しくなり、息ができなくなった。
両親は焦っていた。その姿の後、視界が黒に染まった。
目が覚めると、母が静かに泣いていた。
それを支えるように父が包み込んでいた。
声をかけると泣いていたのが嘘かのように笑ってくれた。
「もぉ、急に倒れるからびっくりするでしょ?」
「心配かけてごめんなさい。今は落ち着いたし、睡眠不足だと思うから大丈夫だよ。」
俺が笑うと、両親も笑った。
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