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3, 今年のこと。
もう今年も、終わろうとしている。
相変わらず、私はスランプの中。
それと比例して、生活は裕福とは言えないものだった。
けれど、ある程度生活に不自由はしなかった。この猫も何かを察しているのか、食べ物に好き嫌いは無かった。
たまに出るご褒美のおやつを幸せそうに噛み締めていた。
この猫は、一体何歳なんだろうか。分かっているのは、オスだということだけ。一体あと何年一緒にいられるんだろうか。
もう、テレビの中の人間がカウントダウンをしている。今年も終わる。
私も過去に踏ん切りをつけられる。
もうカウントダウンの数字がゼロになり、テレビの中で人間が馬鹿騒ぎしている。私も人類の一部なわけだけれど、人と騒ぐより、この猫といるほうがよっぽど安心する。
誰に否定されるわけでもなく、ただ時間がすぎる。
例の猫は、冬っぽくこたつに乗せたみかんを凝視しながら、私の近くにいる。みかんに何を思っているのか。
この猫は懐っこいわけではないが、ひたすら近くにいる。戯れようとすると、うざったそうにする。
私がつまらなそうにしていると、私が好きな本を持ってくる。
沢山の本の中から、ピンポイントで選んでこれるなんて、天才猫じゃないだろうか。
私は猫のことばかり語ってきたが、単純に、これより他に興味がないから、その他に話すことがないのだ。
反対隣の大学生がギターをかき鳴らしたり、近所の鴉が変な声だったり、そんなくだらない話ができる " 人間 " というのは今はいない。
ただ、誰か強く想う人がいた気がするのだ。どうしょうもなく愛していた人。思い出せなくて、気持ち悪くて、病院を受診した事があった。
「大切な事を忘れているような気がして。思い出せないんです。気持ち悪いんです。」
「あまりに思い出したくは無い記憶だったのでしょう。ショックや衝撃で記憶を無くす例は今までも見たことがあります。」
更に医者によれば、その場合、思い出す事も難しいのだという。
誰と暮らしていたのか、誰を想っていたか、今ではもう分からないけど、今は目の前の幸せに浸っているのも悪くはないと、そう思える。
そうやって暮らしていく中で、思い出せればいいな、私の大切な人を。
終わり
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