4,そして10年後のこと。

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4,そして10年後のこと。

あれやこれやとこの猫と過ごしていってもう10年近くになったときである。猫もそろそろ良い年であろうと、検査に行った。 異常はなかったが、もうだいぶ年なので、その時は覚悟しておいても良いだろうと言われた。 この猫と過ごす日々に終わりなどない気がしていたが、終わりが見え始めて、寂しくなった。 また、一人になる。 仕事は波に乗ってきて、生活にも余裕が持てた。 たまにはうちの愛らしいペットに、高級な食事でもさせようと、ペットショップを訪れた日。 今まで感じたことのないほどの立ちくらみがした。 その拍子に、商品棚に肘をぶつけて切ってしまった。案の定、血が出た。 けれど何かがおかしかった。 血が止まらない。大きな傷ではないのに、出血が止まらないのだ。 そのまま、記憶が途絶えた。 気がつくと、私は病室にいた。久々に見た親戚の顔が懐かしい、そんなことを思った。 親戚は、目を覚ました私に驚いて、泣きながら先生を呼びに行ったようだった。 よく覚えていないが、いろんな昔話をして、心が落ち着いたのを覚えている。 状況が飲み込めない私は、親戚のおばちゃんに何があったのか聞いた。 『白血病だって。』 もじもじしながら悲しそうな表情を浮かべたことから、病状の重さと深刻さを理解した。 もう遅かった。かなりステージは進んでおり、今から何をしてももうどうにもならなかった。 そこで、2つの選択肢が与えられた。 病院で治療に専念するか、自宅で経過を見るか。 言ってしまえば、苦しみながら生きながらえるように必死に藻掻くか、もしくは、自宅で静かに死を待つか、という選択だった。 どうせ死ぬのなら楽に死にたいと思った。人生が最初から最後まで辛いなんて、そんなの酷いじゃないか。 その日、すぐに自宅へ帰った。 何も知らない猫は近づいて、甘えてきた。安心した。これでよかったと思えた。 その日の夜はぐっすり眠れた。死んでしまうのではないかと怖くなったが、猫が何かを察して一緒に寝てくれた。 その日の夢は、まるで走馬灯のように、儚く、悲しい思い出に包まれていた。 忘れていたことが、全て解けたようだった。 終わり
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