1人が本棚に入れています
本棚に追加
4,そして10年後のこと。
あれやこれやとこの猫と過ごしていってもう10年近くになったときである。猫もそろそろ良い年であろうと、検査に行った。
異常はなかったが、もうだいぶ年なので、その時は覚悟しておいても良いだろうと言われた。
この猫と過ごす日々に終わりなどない気がしていたが、終わりが見え始めて、寂しくなった。
また、一人になる。
仕事は波に乗ってきて、生活にも余裕が持てた。
たまにはうちの愛らしいペットに、高級な食事でもさせようと、ペットショップを訪れた日。
今まで感じたことのないほどの立ちくらみがした。
その拍子に、商品棚に肘をぶつけて切ってしまった。案の定、血が出た。
けれど何かがおかしかった。
血が止まらない。大きな傷ではないのに、出血が止まらないのだ。
そのまま、記憶が途絶えた。
気がつくと、私は病室にいた。久々に見た親戚の顔が懐かしい、そんなことを思った。
親戚は、目を覚ました私に驚いて、泣きながら先生を呼びに行ったようだった。
よく覚えていないが、いろんな昔話をして、心が落ち着いたのを覚えている。
状況が飲み込めない私は、親戚のおばちゃんに何があったのか聞いた。
『白血病だって。』
もじもじしながら悲しそうな表情を浮かべたことから、病状の重さと深刻さを理解した。
もう遅かった。かなりステージは進んでおり、今から何をしてももうどうにもならなかった。
そこで、2つの選択肢が与えられた。
病院で治療に専念するか、自宅で経過を見るか。
言ってしまえば、苦しみながら生きながらえるように必死に藻掻くか、もしくは、自宅で静かに死を待つか、という選択だった。
どうせ死ぬのなら楽に死にたいと思った。人生が最初から最後まで辛いなんて、そんなの酷いじゃないか。
その日、すぐに自宅へ帰った。
何も知らない猫は近づいて、甘えてきた。安心した。これでよかったと思えた。
その日の夜はぐっすり眠れた。死んでしまうのではないかと怖くなったが、猫が何かを察して一緒に寝てくれた。
その日の夢は、まるで走馬灯のように、儚く、悲しい思い出に包まれていた。
忘れていたことが、全て解けたようだった。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!