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5 ,忘れていたこと。
私は10歳の頃、父と母を亡くした。
父はギャンブラーで、でもそんなどうしょうもない父を、母は愛していた。
借金は嵩むばかりで、打つ手がなくなり、無理心中をしようとしたのだ。
ただ、両親は愛に溢れている人だった。
私への愛は、凄まじいもので、どうしても、私だけは殺せなかったという。
遺書には、
【どうしようもない。だから死ぬ。
その選択しかできない私達をどうか許してください。苦しめるだけならば、この子だけでも幸せにしてほしい。私達にはできなかった幸せにすることを、してほしい。
私達が幸せにしたかった。
それを許してくれない神様を恨み、その神に娘が幸せになることをただ願うことしかできない。】
この選択が正解だったかは、大人になった私にもわからない。けれど、彼らにはこうする他なかったのだ。
最後まで愛に溢れた両親に、恨みも憎しみも何もなかった。ただ、愛していた。
そうして、高校生になり、孤児院を出たとき、身近な愛に触れる機会が多々あり、世界が明るく感じた。
高校2年生のときだった。
屋上に先客がいた。
その人は明らかに死のうとしていた。フェンスの先にいたその人と目線があった。
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