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 舟を漕ごうにも、どちらへ向かえば江戸へ戻れるのか見当も付かない。  仙造は、昼はお日さんを、夜は星を頼りに漕ぐのだとか言っていたが、どのように頼りにすればいいのかまでは聞かなかった。  取りあえず太陽に向かって行けば良いのかと、闇雲に漕いでみたりしたものの、一向に(おか)が見える気配は無い。おかげでひどく喉が渇いたが、水が無い。  いや――  水はあるのだ。言ってみれば四方全てが水だった。  だが、それは塩辛い潮水で、とても飲めた代物では無い。  腹も減ってはいるが、もちろん食い物だってある筈は無い。  とにかく、舟に残ったのは幸蔵の身体ひとつきりなのだ。  遮る物とて無い灼熱の日射しが肌を焼く。  身体は乾き、白く粉が吹いたように塩が浮き出してくる。  嵐に荒れ狂う真っ黒な海も恐ろしいが、こうなってみるとこのどこまでも凪いで穏やかな青い海だとて、何一つ変わりはしない。  それは、果てなく続く青という名の絶望だった。
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