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時折、心の闇にのまれそうになる。 自らの肉体を傷つけてどうにか正気を保つ。 また夜がやってくる。 心の闇に、のまれる。 他者から見えない位置に爪を立て、傷をつける。 祈るように、傷をつける。 痛みだけに意識を集中する。 「……蒼。」 紅の声が、呼んでいるのは知っていた。 それでも痛みだけに意識を集中する。 心の闇にのまれてしまえば、もう戻れない。 「蒼。」 固く閉ざしていた唇に、そっと口づけられる。 自らの乾いた唇を、紅の潤った唇がそっと包む。 優しく唇を舌で撫でられると力が緩み、ただ紅の与える深い口づけに酔う。 「紅……?」 とろりとした眼差しで紅を見つめる蒼。 「……痛みに縋るくらいなら、俺に縋れ」 紅は蒼の首筋に噛みつき、そっと血を吸う。 血が急に足りなくなれば、人間は嫌でも眠る。 やがて、蒼の背を支えていた手にずしりと重みがかかった。少し白くなった蒼の顔を見ながら、そっとベッドに横たえる。 「今はただ、優しい夢を」 紅は、起こさないようにそっと蒼の頭を撫でながらベッドサイドに座っていた。
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