6 (紅の独白)

1/1
前へ
/8ページ
次へ

6 (紅の独白)

眠る君の寝息を聞いていた。 人間ではない俺に、眠るという概念はないから。 幸せそうに眠る君を、ただ見つめた。 少し苦しげな君の寝息を聞いた。 温かな君の頬を、柔らかな君の髪を、撫でた。 君の眉間の皺が少し和らいだように見えた。 紅、と呼ぶ君の寝言を聞いた。 寝言に返事をしてはいけないと知っていた。 それでもなんとなく、蒼の名を呼び返した。 深夜にふと目覚めた君を見た。 近くに俺がいると気付くと、嬉しそうに微笑んだ。 俺は優しく君の頭を撫で、再び寝かしつける。 寝ながら涙する君を見た。 君の頬を濡らす涙を、ハンカチでそっと拭った。 涙の跡にそっと口づけをした。 どうか、君が幸せな夢を見るように。 希望にあふれた目覚めとなるように。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加