ナツ、襲来!

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「とりあえず原発再稼働は最後の手段として、現在使える火力発電所をフル稼働させて電気の増産に当てます。温暖化に関する諸外国の批判には、この死者まで出る異常な猛暑で電力不足になっている実情を海外メディアにリークし、〝発電による温暖化ガスもやむなし〟という世論を形成するつもりです。あとはまあ、中東情勢が不穏になって、原油価格が高騰しないことを願うのみですね」 「どうですかな? 総理。そんなところで」  無難で現実的なその提案を聞いて、団官房長官がおとなりで黙り込んでいる藪首相に御うかがいをたてる。 「うん。いいんじゃないかな。では、そうしてくれ」  ちゃんとわかっているのかいないのか? それに首相は簡単に首を縦に振ると、経産、環境の両大臣も渋い顔ながら納得し、この問題については一応の解決が見られたようである。  こうして、関係者のやる気とまとまりがあまり感じられぬまま、そこはかとない不安を抱えて船出したNATU委員会であるが、彼らの事情などお構いなく、問題は矢継ぎ早に襲って来る……。 「――夜具内大臣、全国で氷菓、ビールが深刻な品不足になっているとの報告が消費者庁より上がってきています!」  数日後、早くも日本列島がすっぽり〝ナツ〟の熱波にさらされる中、首相官邸内の事務室に詰めていると、部下の女性官僚・御館一二三(おやかたひふみ)が受話器を耳に当てたまま大声で夜具内に告げる。 「しまった! 盲点だ……〝ナツ〟の熱波はそんなところにまで影響をもたらすのか……」  危急のその知らせには、想定外だった夜具内も驚きと戸惑いの声を上げて額に手を当てる。 「この暑さだ。そりゃあ、アイスとビールはうまかろう。一日に食される量は計り知れん」  夜具内の嘆きに、彼の古くからの友でもある六本木総理補佐官が、その〝泡の立つ黄金の飲み物〟を脳内に思い浮かべ、ゴクリと喉を鳴らしながらとなりで答えた。 「ま、経済的にはうれしい悲鳴であると言えるが……ともかく、各メーカーには可能な限り急いで増産してもらおう」 「だが、今でも工場のラインはフル稼働だろう。これ以上の増産は無理じゃないか?」  当然の判断を下す夜具内に、良き理解者であり、またライバルでもある六本木も適切な意見を述べてその問題点を鋭く突く。
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