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「そうだな……仕方ない。夏季限定で工場の設備投資をする企業には特別助成金を出そう。また企業優遇だと野党に責められるだろうが、アイスとビールが不足して暴動が起きるよりはましだ」
六本木のアドバイスを受け、夜具内はNATU特命担当大臣として、この困った問題に対してそんな思い切った決断を下した。
しかし、〝ナツ〟の猛威とその侵攻は、まだまだこれからが本番である。
同日。都内某所……。
――ミーン……ミーン、ミンミンミンミンミーン…。
「これは……芹鴨くん、今のを聞いたかね?」
「はい、先生! これは間違いなくミンミンゼミの鳴き声です!」
都市部における昆虫の生態調査に出かけていた帝都大学生物学部の山葉浩教授と助手の芹鴨小助は、傍らの街路樹から突然、聞こえてきたセミの声に目を丸くして顔を見合わせた。
「都内では初の確認かもしれない。急いで内閣府へ連絡だ!」
「はい! ……あ、もしもし、帝都大学生物学部の者ですが、NATU委員会に繋いでいただきたいのですが――」
そのミンミンゼミ確認の一報は、予てからの協力依頼通り、すぐにNATU委員会へも知らされる。
「――あ、はい。わかりました。報告、ありがとうございます。それじゃあ、失礼します……大変です! 調査協力を要請してた生物学者からミンミンゼミ出現の情報が入りました!」
さらに電話を受けた男性官僚の叫び声により、その報告は嫌でも夜具内の耳に入る。
「ついに都内にも現れたか……〝ナツ〟の眷属どもめ。あの音波攻撃にさらされては、ただでさえ暑苦しいのに堪ったものではないぞ……」
そう言われると、なにやらこの界隈でも微かに聞こえているような気もしてくるうるさいあの羽音に、夜具内はまたも頭を抱えさせられてしまう。
「気象庁から週間予報が出ました! 明日より一週間、全国各地で35度を超える猛暑日となる模様です!」
そこへ追い打ちをかけるようにして、今度は女性官僚の御館が手にしたタブレット画面を眺めながら、これまたうれしくもない情報を伝えてくる。
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