ナツ、襲来!

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「35度だと!? 成長が速すぎるぞ! もう〝ナツ〟は最終形態の〝真・ナツ〟へ移行したというのか……冷房ももう限界だ。何かいい手は……他に効果的な対抗手段はないのか……」  相次いでもたらされた問題のダブルパンチに、難しい顔で考え込む夜具内。 「そうだ! ここは先人の知恵に力を借りましょう!」  そんな悩む上司の姿に、先程、セミの情報を伝えた若き男性官僚・加藤賢輔(かとうけんすけ)がポンと手を打って口を挟んだ。 「先人の知恵?」 「風鈴ですよ! 目には目を、歯には歯をです。まだエアコンなどない時代、かつて先人達がしていたように、風鈴の涼やかな音で暑さを和らげるとともに、セミどものうるさい鳴き声にも対抗するんです!」  怪訝な顔で聞き返す夜具内に、加藤は目をキラキラと輝かせながら、少々興奮気味に思いついたアイデアを上司に伝える。 「風鈴か……よし! それでいこう! 安物でも構わん! 全国の問屋に連絡して風鈴をかき集めてくれ! それを各市町村を通じて各戸に配るんだ! ああ、加えて軒のある公共施設や商店にもだ!」  若者のひらめいたそのアイデアはどうやら気に入られたらしく、夜具内は即断即決で部下の官僚達に指示を飛ばす。 「でしたら、同じく先人の知恵で〝打ち水〟を全国的に奨励してはどうでしょう?」  すると、加藤に刺激されたのか? 御館も積極的に自分の考えを口に出し始める。 「打ち水はただのイメージだけでなく、気化熱で温度を下げたり、舗装道路の輻射熱を下げる効果があります。大規模に行えば、それなりの成果が得られるはずです」 「そうだな。東京都などの行っている〝打ち水大作戦〟の例もある。ただし、間違ったやり方では逆効果だという話も聞くし、水道水を使っては水不足も発生しかねない。御館くん、早急にガイドラインをまとめて、各自治体に大規模打ち水の実施を打診するんだ!」  加藤とは対照的に、淡々と理路整然に話す御館の言葉も夜具内の心を動かしたらしく、こちらも即決すると、彼は彼女にこのプロジェクトを一任した。
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