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連日の猛暑日に、一日中鳴りやまぬセミの鳴き声……本格的に猛威を振るい始めた〝ナツ〟に対して、手探りながらも懸命に対応策をとる夜具内らNATU委員会の面々。
だが、〝ナツ〟のもたらす災厄は、そんな純粋な〝暑さ〟だけに留まらなかった……。
「――困ったことになりました。関東では湘南、関西では須磨の海水浴場を筆頭に治安の悪化が問題になっています」
「熱いぞ! 熊谷」のキャッチフレーズで有名な熊谷市で41.1度の観測史上最高気温を記録したその日、加藤が眉を「ハ」の字にして困惑した様子で夜具内に告げる。
「治安の悪化? まあ、家族連れをはじめ、海水浴客がわんさか来るだろうからな。そこを狙ってスリや置き引きが横行してるってとこか?」
「いえ、そうではありません。むしろ、その家族連れが遊びに来れない状況になってるんです」
加藤の話にそんな推測をする夜具内だったが、困った顔の若き官僚はなぜか首を横に振る。
「どういうことだね?」
「原因は若者達ですよ。今年に限ったことじゃないですが、夏の海水浴場にはナンパ目的の男女ばかりが集まります。その上、いわゆる〝パリピ――パーリーピーポー〟と称される輩がマナーを守らない行為を繰り返し、おまけに海の家まで彼らに合わせてクラブミュージックなんか流すもんだから、もう浜辺は家族連れなんか近づけない混沌状態と化しているんです」
眉根を寄せて尋ねる夜具内に、加藤は肩を竦めながら、やれやれというように説明してみせた。
「ハァ……暑さ対策だけでこっちは手いっぱいだっていうのに、そんな心配までしなきゃならないのか……さて、どうしたものやら……」
「なあに、それなら今回も日本の古き良き伝統ってのに力を借りようじゃないか。〝美しき国、日本〟ってやつを取り戻してやろうぜ」
今日もまた、額に手をやって深い溜息を吐く夜具内を見て、六本木が何か妙案を思いついたらしく、どこか愉しげにそんな助け舟を出す。
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