ナツ、襲来!

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 この成功を機に同様の作戦が各地で遂行され、六本木の目論見通り、海水浴場は本来の安全に子供達が夏の思い出を作ることのできる、あるべき姿を取り戻したのだった。  …………ところが。  〝ナツ〟による治安の悪化は、それだけに留まらなかったのである。  第二回NATU委員会連絡会議……。 「――ま、夜具内くん達はよくやってくれているんだが、治安上、少々見過ごせない事態が発生しているらしい……警察庁さん、その話を」 「はい。毎年のことですが、この季節、若い女性がキャミソールやホットパンツなど、露出の多いファッションを好むのとともに、精神面でもそれに比例して開放的になることから、未成年者における不純異性交遊での補導、また、公共の場での不適切な男女の行為による猥褻物陳列罪などが急増しています」  相変わらず活舌の悪い首相に話を振られ、青い制服をビシっと着込んだ衿原貴(えりはらたかし)警察庁長官がよく通る声で明朗に説明をする。 「学校教育の場でも、そのことは大きな問題となっています。特に夏休み中はなかなか目が届きませんからね」  その言を受け、堺尻六郎(さかいじりろくろう)文部科学大臣も我が意を得たりという様子で声を上げる。 「若者の暴走は海だけじゃなかったということですか……でも、安心してください。我々には秘策があります」  しかし、この話を聞いた夜具内は、いつになく落ち着いた様子で自信満々にそう答えた。 「これまでの経験則上、〝ナツ〟によって引き起こされる諸問題に我が国の伝統的な手段が非常に有効であることが確認されています。今回の件に関しても、おそらくそれで充分対処できるはずです」 「ずいぶんと抽象的な言い方だな。で、具体的にその方法というのはなんなのかね?」  夜具内の回りくどい言い方に、団官房長官が少々苛だらしげに尋ねる。 「浴衣ですよ。若年層に浴衣の着用を奨励するんです。浴衣なら露出度が低い上に、夏祭りや花火大会など、着る機会の多いこの季節にはぴったりです。和服の中でもお手軽感から比較的普及しているものですし、容易に誘導できるものかと思われます」  団の質問には夜具内に代わって、六本木がやはり自信に満ちた態度でそう答える。
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