兄弟

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時は平成最後の八月。 紅葉して葉が落ちる月、というのが由来らしい葉月である。 だが、紅葉なんて“こ”の字もなく、木々は碧碧と生い茂り、雑草はムキムキと育つ。 蝉の猛々しい季節。 果物の美味しい季節。 扇風機と恋仲になる季節。 つまるところ、夏がきた。 夏がきたのだ。来てしまった。 夏休みのある学生ならば、夏だひゃっほうの一叫びくらい吝かではないが、生憎とこちとら社会人である。 だが是非に一叫びを、と頼まれたならば夏のこんにゃろーである。 夏は暑い。暑いだけならば未だ良い。 部屋の涼しさを求めるのか、室内での虫遭遇率が鰻登りする。 特に黒光りして、体が木の葉の如くペラペラで、しゃかしゃかと足の速いアイツである。 なぜ地球を出て火星に行ってくれないのか。彼らの生命力たるや最早地球に収まる器ではないだろう。彼らには新たな生息地として早々に宇宙に眼を向けていただきたい。 さて、大幅に、恐ろしいほど話が逸れてしまった。 俺は別に害虫の話をしたいわけではない。 そして何も害虫だけでは、これほど夏に憂鬱を感じることなどまるでなかった事だろう。 俺にとって夏とは憂鬱がそこかしこに散在した魔の季節なのである。
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