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 投げかけたのは、分かり切っていた問いかけだった。ほとりの姿を人が認識できなくなったのは、精神的だけでなく、物理的にも縁遠くなってしまったから。  線路が作られて、駅というものができて、暮らしの中心は少しずつ移動していった。主な居住区が変わったせいか、近く、河川の切り替え工事が行われることになった。人の手で新しい川が掘り整えられて、ここ、つまりほとりは、大量の土砂で埋められる。なにもなかったことにされる。 「あっ! あ、もしかして、さみしいと?」 「それは、そうだよ」 「ふふ、素直なところもよかとねえ。かわいかよ」  便利さを求めたからこそ人はここまで生存できてきた。きっと地球はもう人間のものだから、部屋の模様替えをするような感覚なんだろうと思う。ぼくの感情なんて、世界に尊重してもらえるようなものじゃ決してないけど、別れたくなかった。せっかく巡り会えた、ほとりと。 「悪いことばっかりじゃないと思うけん。なにかを、なくしていくのも」  もしかしたら死なんかもしれんもんね。みんながあたしを見てくれるようになったりして。ぜんぶ、ほとりの希望でしかなかった。かすかな自由さえも奪われてしまうかもしれないのに。広すぎる大地の上で、途方に暮れるだけになるかもしれないのに。 「ずいぶん長く生きとるけど、なかなか、器用にはなれんばい。つまらんことで悩んどるし、そやね、眠れない夜だってたくさんあるったい」 「ほとりも、そうなんだ」 「意志が弱いけん、なりたい自分には、なれんかった。望まない状態やけど、きっと、こういうのもええんやないかなって思うとよ」
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