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「はい。……いえ、何も着ていませんでした。急に後ろから抱きつかれて。……年は、私と同じくらい。高校生か大学生くらいだと思います。……背は、180cmくらい? 髪は、普通の長さの、茶髪でした。いえ、そんなに明るくはない。他に特徴? ……色黒でした。いえ、日本人だと思います。他には特に。……はい。……はい」
電話を切るとソファに転がった。緊張の糸が切れて、急に身体が重くなる。
「ご飯にしようか。荷物、部屋に置いてきなさい」
お母さんに促されて私はしぶしぶ立ち上がり、2階の自室へ向かった。
パチンと電気をつける。部屋にはムワッとした熱がこもっていた。
部屋を横切って窓をあける。
7月中旬のこの時期なら、まだクーラーをつけなくても、外から涼しい風が入ってくるのだ。
窓ガラスを引くときに、いっしょに網戸もズレてしまった。それを元の位置に戻そうとしたときだった。
黒い影が飛び込んできた。
何っ?
振り返ると、影は床でブルブル震えていた。
よく見ようと目を凝らして近づき、次の瞬間「ひぃっ」と飛びのいた。
虫だ。というか、蝉だ。うげっ。
何本も生えた足や、気持ち悪い羽や、グロテスクな顔までしっかり見てしまった。
最悪だ。今日は最悪な日だ。
帰り道で露出狂に遭遇しただけでも最悪なのに、部屋に蝉まで入ってくるなんて。
はやく追い出したいけど、自分でやるのは怖い。お母さんを呼ぼう。
そう決めたときだった。
突然、部屋の中にモヤがかかった。
今度は何?
モヤはどんどん濃くなって、視界を真っ白に染め、消えた。
代わりにいたのは、見覚えのある人物。
さっきの露出狂!
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