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高く澄んだ声が部屋の中に響いたと同時に、先輩が顔を上げた。私もつられて声のするほうを見た。
化学室の入り口に立っていたのは、綺麗な顔立ちの女子生徒だった。スタイルが良くて、さらさらストレートヘアで、化粧もバッチリ。天然パーマで、小柄で、団子ッ鼻の私とは、同じ制服を着ているはずなのに、全く別次元で存在してるっていう雰囲気が、ひしひしと伝わってきた。
女優張りの華麗な足取りで化学室の中に入ってきた彼女は、横塚先輩に向かって「ごめんね、無理言って」と詫びていたけど、その態度の中に悪びれた風は無い。タメ口だから先輩と同じ3年生のようだ。
そんな彼女に「いいよ。これくらい」と横塚先輩は気さくに応じながら、書棚を開けて、中からクリアファイルを取り出した。それが、猫のキャラクターが描かれた見覚えのあるクリアファイルだったから私は驚いてしまい、その行方を凝視した。
「ありがと、助かるわ」
美人の先輩は何のためらいもなくクリアファイルを受け取ると、そのまま化学室を出ていく。
「たま、こぼれてるぞ!」
「へ?」
話を終えて振り返った先輩が慌てて指摘してくれた通り、私はメスピペットの先からぽたぽたと試薬をこぼしていて、それがビーカーを掴んでいた左手の甲にも零れていた。
「すぐ手洗ってこい」
「すみません」
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