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大声で叫ぶと、階段を上っている途中の園崎先輩が振り向いた。
「その実験は私達がやったものです。返してください」
「え?」
「先輩はその抽出実験に、何も関わってないじゃないですか」
私の剣幕に、園崎先輩は最初、呆気に取られた顔をしていた。でも事情を呑み込むと肩をすくめ、階段の下にいる私をひどく見下した目で見て来た。
「あらまぁ、今年の化学部は、ぴーちくぱーちくと威勢のいいヒヨコちゃんが入ってきたのね」
ヒヨコじゃないです。猫ですよ!
心の中では反論したけど、彼女の口元に浮かんでいる冷笑を前にしては、とても口には出せない。
それでも私は必死に自分を奮い立たせ、先輩に向かって手を突き出した。
「と、とにかく、返してください。推薦取るのにこういうのが必要なら、自分で実験したらいいじゃないですか」
「そんな暇無いのよ。啓晃だって、いいって言ってるんだから、ちょっと名前を書き加えるくらい、構わないでしょ」
か、軽々しく下の名前を呼び捨てにしてるしぃ……!
悔しくて悲しくて、なんだか無性に泣きたくなってきた。
「良くありません。誰が何と言おうと、そのレポートは私と横塚先輩のものですから、返してください」
「……あなた、名前は?」
「そこに載ってます」
「―――多摩沢日奈」
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