1/5
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

「お母さんは、どうして何も言わないの?」  リビングのソファで眠る父親にタオルケットをかける妻。私には無職の中年男性を甘やかしているようにしか見えなかった。 「お父さんは、少しお休みしたいのよ」  そうやっていつも、自分に言い聞かせてきたのだろう。伏し目がちな眼差しに、憂いが映る。お母さんも不安なのだ。 「あれこれ言うけど、このままじゃいけないって分かってるわ。だから、今は自由にさせてあげてね」 「本当に、大丈夫?」 「……大丈夫よ。人間誰だって、休憩したい時があるわ」  そう言われたものの納得出来なくて。私は勉強机に向かいながら、お母さんに言われた言葉を脳内で何度も巡らせた。問題集をぱらぱらとめくる。集中出来ない。時刻は夜の11時になろうとしていた。気分転換に何か飲もう。私は1階のキッチンへ降りた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!