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 まさか、こんな過去の文章を引き合いに出すなんて。作文を理由に定職に就かないのを正当化しようと言うのか。苦しくて窒息しそうだ。  私は作文を丸めた。大袈裟に音を立てて圧縮すると、放り投げる。残念ながら、ゴミ箱には入らなかった。 「……大学」  転がる紙団子を見やる横顔に、私は言葉を叩きつける。 「大学、私立狙っても良いって言ってくれたじゃん。お金かかるけど、何とかするって。そう言ってくれたから、成績を落とさないように頑張ってきたのに。お金がなかったら、いけないじゃん」  地方住まいの私は、高校卒業後の進路に悩んでいた。進学するにしても近くにあるのは国立大学で。今の学力で狙うにはハードルが高すぎた。進路に迷う私に、あの頃のお父さんは神様に見えた。金は工面する。だから、自分がやりたいことを学びなさい。そう言って、県外の大学のパンフレットを進んで持ってきた。
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