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そこには相変わらずの父親の姿があった。ソファにうずくまり、バラエティ番組をじっと見ている。視界に入れると心が濁る。私は出来る限り見ないようにして、冷蔵庫を開けた。
「何か飲むのか? お父さんにもお茶をもらえないか?」
「……自分で取りに来たら」
「ああ、結衣か。お母さんかと思ったよ」
それきり彼は動こうとしない。私はグラスを出すと、乱暴に麦茶を注ぎ、お父さんの元へ運んだ。相手は少し驚いた顔で「ありがとう」と小さく呟いた。
「こんな番組を放送しているんだな」
「……随分前からこの時間にやってるよ、これ」
「ああ、そうなのか」
麦茶を1口飲み、お父さんは画面を注視しながら言う。
「ずっと遅くまで仕事で、家に帰ってきたら寝るだけ。そんな毎日だったから、お父さんはテレビ番組さえ知らなかったってわけだ。何だか可笑しいな」
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