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リビングに置かれたテーブルの上はゴミだらけ。お父さんが食べた菓子の袋や、切り抜きがされた新聞や求人誌、よく分からない書類まで広がっている。その中に、私が書いたコウモリの作文があった。無理やり広げてシワを伸ばしたのだろう。掠れた鉛筆の跡が、蛍光灯を反射して滲んだ。
「仕事を辞めたら、家族との時間が取れると思ったんだが、そうでもなかったな」
「お父さん、ずっとソファに座りこんでばっかりじゃん」
「はは、そうだな。もう部長と会わないと思ったら気が抜けてさ。お父さん、くらげみたいにふやふやになっちゃったよ」
「それって、くらげにとっても失礼」
唇を薄く開けて、頬を少し持ち上げて。見事な半笑いをお父さんは浮かべた。
「大学、好きなところに行きなさい」
「……えっ?」
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