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冗談や気休めかと思いきや、本気らしい。頼りない表情のまま、お父さんは長く息を吐いた。大学。行けたら嬉しいが、第1志望は私立の4年制だ。家に迷惑をかけないように、短期大学にするか、就職に進路を変えるか。お母さんに相談しようと思っていた。
「お金は?」
「金はなんとかなる」
「お父さん、働いてないし……」
「そうだな、働いてないな」
お父さんはぽりぽりと後ろ頭をかいた。
「でも、子どもの希望を叶えてやりたいじゃないか」
そう言って持ち上げた視線は、どこも見ていなかった。虚ろで、自分の発言に自信がない、揺らめく瞳。それでも私は確かに見たのだ。その眼の奥に、澄んだ水面が輝いていたのを。
「結衣、その……この間は悪かった。……ごめんな」
お父さんはそう言って、なんとも言えない顔をした。
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