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「あっ、しまった。財布がない。結衣、リビングにあるから取ってきてくれないか」 「ええー……まったく……」  私はリビングに入ると、テーブルから財布を取り上げた。ソファの上はクッションが1つ置かれているのみで。あの頃積み上げられていたゴミ山が、嘘みたいになくなっている。  私はサンダルを履き、車に乗り込んだお父さんに忘れ物を渡す。相手は短く礼を言うと、ホームセンターに向かってハンドルをきる。 「あ、コウモリ」  静けさを取り戻した夕闇の中を、コウモリが飛ぶ。ぱたぱた、ぱたぱた。小さな体躯を紫色の大気に乗せ、飛んで行く。  暮れなずむ空に、黒いシルエットが優雅に舞い踊った。
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